バイオマーカーを活用した個別化医療の現状と期待
2025.10.07

Medical領域のリサーチ担当の水上と申します。このたび、日々業務で感じていることを、自由な視点(M’s EYE)でお届けしたいと思っております。
第4回は「バイオマーカーを活用した個別化医療の現状と期待」です。
個別化医療を支えるバイオマーカー
近年、オンコロジー領域を中心に、「個別化医療」が進んでいます。
個別化医療は、共通した特徴を持つ患者集団あるいは患者さん一人ひとりにおける、診断・治療・予後の病気の各ステージで、理想的な治療システムといえます。
また、「個別化医療」の実現に向けては、バイオマーカーの活用が必要不可欠です。
診断においては、発症早期に特異的なバイオマーカーを測定することで、より早く正確に診断でき、適切なタイミングで治療を開始することができます。
治療においては、治療効果の高い薬が予測できること、また不要な副作用が避けられることや予後や再燃リスクをモニタリングすることが可能になります。
オンコロジー領域での進展と免疫疾患領域での期待
現在、臨床的に最も進んでいるのは、オンコロジー領域です。
例えば、バイオマーカーと治療薬がセットで用いられるコンパニオン診断薬では、EGFRやALKなどの遺伝子変異を用いた分子標的治療を飛躍的に進展させています。
さらに、以前はコンパニオン診断薬で1つの遺伝子変異を検査していましたが、最近では多くの遺伝子変異を同時に検査できるがん遺伝子パネル検査が臨床に使用されるようになりました。
一方、オンコロジー領域と同様に、分子標的治療が積極的に行われている領域として、免疫疾患領域があります。
ただ、免疫疾患領域においては、多くの分子標的薬は使用されていますが、オンコロジー領域のように「個別化医療」の実装はまだ進んでいるとはいえません。
その理由としては、免疫疾患領域は、複数の免疫経路が関与していることが多く、症状も多様的であることから、特異的なバイオマーカーが同定できていない、また単一のバイオマーカーを狙っても、期待する治療反応が得られにくいなどにより、患者さんの明確な層別化が困難であることが挙げられます。
免疫疾患領域は、個別化医療の進展に向けて課題も多いですが、慢性的かつ根治が難しい病気が多く、今後臨床的な実装が進むことを期待したいと思います。
製薬企業・行政に広がるメリット
また、バイオマーカーを活用した「個別化医療」においては、患者さんへのメリットだけでなく、製薬企業や行政でも、大きなメリットが生まれます。
製薬企業にとっては、バイオマーカーによる適切な患者層をあらかじめ特定することで、治験の成功確率が高まり、開発上の様々なリスク低減につながります。また、薬剤の上市後は、市場でのポジショニングの差別化を図ることもでき、薬価戦略としても有利に働くといえるでしょう。
行政にとっては、効果の期待できない不要な薬剤の投与を避けられることで、財源が抑えられ、高薬価の多い薬剤が使用される現状の医療制度の持続可能性を支える仕組みとなります。
なお、弊社では、現在国内・海外(米国、欧州)における、遺伝子変異にフォーカスした個別化医療について、主要プレイヤーの戦略を中心としたレポートを作成しております。
年内の発刊を予定しておりますので、ご興味がございましたら、ぜひ弊社までお問合せいただければと思います。

2018年の(2回目の)入社当時から現在まで、医療用医薬品領域において、患者・ドクター調査および受託調査を担当。特に自己免疫疾患や精神神経疾患の調査に、数多く携わっている。