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低分子薬の再注目―高薬価時代における有望な選択肢

水上 徹

リサ・リューション事業部
ソリューショングループ(Pharmaceuticals & Medical)
シニアアナリスト

2018年の(2回目の)入社当時から現在まで、医療用医薬品領域において、患者・ドクター調査および受託調査を担当。特に自己免疫疾患や精神神経疾患の調査に、数多く携わっている。

高薬価製品の躍進とその課題

 今回は「低分子薬の再注目ー高薬価時代における有望な選択肢」です。
最近の創薬開発においては、抗体医薬や再生医療・遺伝子治療などといった高薬価製品へのシフトが目立っており、これら製品は従来治療が困難とされていたアンメットニーズの非常に高い疾患、難治重症患者への治療を可能にする、非常に期待の高いものです。

 一方で、日本国内においては、高齢化に伴う社会保障費の増大を背景にして、薬価制度の改定や毎年実施が行われ、高薬価製品であっても、早期に薬価が引き下げられてしまう構造になっています。
また、治療を行うドクターからも、高薬価製品の使用患者対象は、医療経済面を理由に、限定的になる、使いたくても使えないというような声も聞かれます。

経済性と実用性で再評価される低分子薬

 このような中、あらためて注目されるのが、低分子医薬です。
低分子医薬は、直近で大手国内企業(外資系の日本法人を含む)20社の新薬の半数近く、開発パイプラインでも3~4割を占め(※TPCマーケティングリサーチ調べ)、存在感はいまだ大きいものです。

 近年、分子標的技術が進化したことで、従来は抗体医薬でしか治療が難しかった難治性疾患の領域においても、選択性が高く、効果の高い低分子医薬が登場しています。
すでに市場にあるものの中では、JAK阻害薬やBTK阻害薬、KRAS阻害薬といった分子標的薬は、従来の低分子医薬に比べると薬価は上がりますが、抗体医薬などと比べると薬価は抑えられ、経口投与で使い勝手もよいものです。
なお、JAK阻害薬(JAKファミリーへの阻害作用を有する関連薬を含め)については、弊社でも調査の対象となることが多いお薬です。
安全性への評価は十分とはいえませんが、JAKファミリーへのマルチターゲット作用を有し、幅広く高い治療効果や経口剤としての利便性の高さを持つJAK阻害剤は、様々な自己免疫疾患において、抗体製剤との使い分けや代替使用として、医師からの期待の声が大きいです。
さらに、最近ではAI創薬やドラッグリポジショニングの進展により、開発コストや開発期間の短縮が現実的になっていること、また技術進化により(PROTAC技術やRNA標的など)、画期的な創薬の可能性も広がっていることから、中堅企業、ベンチャー企業を中心に、低分子領域に注目する企業も多い印象です。

 これまでは、高薬価製品がアンメットニーズの高い疾患に使用され、低分子医薬は比較的軽症の疾患やコモンディジーズ中心というすみわけもみられましたが、上記のように、低分子医薬が高薬価製品の一部の市場を侵食している例もあります。
今後は、医療経済面と革新性を両立するべく、高薬価製品の治療が及ばない領域や症例に対する有望な治療選択肢として、進化をみせる低分子薬に期待したいと思います。

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