進む患者参加型医療ー背景と広がりー
2025.11.07

Medical領域のリサーチ担当の水上と申します。このたび、日々業務で感じていることを、自由な視点(M’s EYE)でお届けしたいと思っております。
第5回は「進む患者参加型医療―背景と広がりー」です。
患者参加型医療の現状
近年、医師と患者さんが協働して治療方針を決定する「患者参加型医療」が広がっています。
これは、医師が治療方針を一方的に決定するのではなく、医師と患者さんが治療方針について相談し、ともに最適な治療を選択するという考え方です。
いわゆる「共有意思決定(Shared Decision Making:SDM)」と呼ばれるもので、患者中心の医療実現に向けた重要なアプローチとされています。
風邪や軽いけがなど、短期間で治療が完結し、治療法や薬の選択がほぼ決まっている場合は、医師の判断で進めるのが一般的ですが、がんのように命に関わる疾患や、手術の有無など重大な治療選択肢が複数存在するケースでは、患者さんが自らの価値観をもとに方針を選択することが標準的になりつつあります。
また、直接的に命に関わることが少ない疾患でも、糖尿病や乾癬などの慢性的・長期的な疾患では、ご自身の意思を治療に反映したい意向は少なくありません。
実際に弊社が実施した患者さんを対象とした調査では、いくつかの疾患領域において、平均して3~4割の患者さんが『医師と相談したうえで治療を決定』しており、今後の意向(希望)ではさらにその割合が増える傾向にあります。
一方で、残りの過半数の患者さんは、医師の専門性を信頼するなどにより、治療を任せたい、医師主導で進めてほしいといった意向がみられました。
しかし、実際の臨床現場では、医師によって専門領域や経験、情報の幅に差があり、必ずしも最適な判断が行われるとは限りません。
こうした患者さんでも、自身が疾患についての知識を持ち、医師の説明を理解し、少なくとも内容の妥当性を判断する姿勢が必要といえるでしょう。
患者参加型医療が広がる背景
「患者参加型医療」を支える要素の1つが、インフォームド・コンセントのプロセスであり、医師が治療の目的、効果、副作用、治療選択肢などをわかりやすく丁寧に説明し、患者さんが理解・納得したうえで同意することが重要です。
さらに、これだけでは不十分であり、患者さんがその情報を理解し、意思決定に積極的に関与できるよう、知識やリテラシーを高めることも欠かせません。
近年ではインターネットやSNSの普及により、最新の医療情報を得やすくなり、こうした環境整備が患者さんの参加を後押ししています。
患者参加型医療の推進と企業のかかわり
政策面でも、医学研究や臨床試験プロセスに対する「患者・市民参画(PPI)」を促進するなど、患者参加型医療を推進する動きがみられます。
そして、製薬企業でも、「患者参加型医療」との関係は強まっています。
患者中心の治療方法や治療薬の開発、患者さんが理解しやすい情報提供、医師などの医療関係者と患者さんの対話の質を高めるサポート・支援が求められ、こうした取り組みは、今後企業の新しい価値や発見を創出することにもつながっていくのではないかと考えられます。

2018年の(2回目の)入社当時から現在まで、医療用医薬品領域において、患者・ドクター調査および受託調査を担当。特に自己免疫疾患や精神神経疾患の調査に、数多く携わっている。